歓喜は向こうからやってくる
2023年03月26日
3月16日は、WBC決勝が午前中に行われた。情報を遮断したかったのに。
その日も始まりは普段と変わらなかった。日本がアメリカと決勝で戦うからといって特別なことなんてしない。
当たり前だ。作業所にはみんな仕事をしに来ている。
ところが10時の休憩時。何気なく二階へ昇ったらいきなりそれはもたらされた。
ある知的の男の子がすれ違いざまに声をかけてくる。
「〇〇さん、1対3」
「なに?」
「1対3。1対3」
いきなりだった上、この言い方だから不安になる。まさか。
「1対3。アメリカと日本。野球で」
知りたくないけど、そこまで聞いてやっと胸を撫で下ろす。
彼は興奮しているのか、一階へ戻った後もいろいろな人を捕まえて「1対3」を連呼した。みんなが困惑する。一部の利用者からは咎められてもいた。
特に盛り上がっていない中で、空気を読めないにもほどがある。
休憩が明けると彼は別室に離れたため、それ以上余分な情報が入ることはない。と、思ったが。
午前で終えての送りは理事長の運転で、その車中にはラジオでWBC決勝の模様がばっちり流されていた。それもクライマックスの9回、大谷翔平が登板したシーンから。
さらに自宅へ帰ると、お母さんが点けっぱなしにしたテレビがその大谷翔平を映像で映している。そしてかばんを置いて上着を脱いだところでゲームセット、侍ジャパン歓喜の瞬間。落ち着く間も与えられない。
3大会ぶりに日本が世界一を奪還したその瞬間にはギリギリ間に合ったのは良かったと思う。でも、できたら家に帰るまで試合展開を知りたくはなかった。
僕はまずスポーツ観戦をしない。それは今回のWBCも同じで、どの試合も生歌中継では観ていなかった。ハイライトで情報を知れば十分。
いくら日本中が熱狂した大会でもこういう人はいる。侍ジャパンの優勝は祝福しつつ、複雑な気持ちだ。